文学その5

『青空文庫』にある作品を『Google Translate』で英訳してみました。

世界怪談名作集:15 幽霊:モーパッサン ギ・ド:岡本 綺堂(127-188)/188

実は半分夢中でしたが、それでも私には一種の誇りがあり、軍人としての自尊心もあるので、どうやらこうやら形を整えることが出来たのです。

Actually, I was half crazy, but I still had a kind of pride and self-esteem as a soldier, so I was able to shape it.

わたしは自分自身に対して、また、かの女に対して――それが人間であろうとも、化け物であろうとも――威儀を正しゅうすることになりました。

I am going to fix my dignity against myself and against that woman, whether it be human or a monster.

相手が初めて現われたときには、何も考える余裕はなかったのですが、ここに至って、まずこれだけのことが出来るようになったのです。

When the opponent first appeared, I couldn't afford to think about anything, but when I arrived here, I was able to do all this.

しかし内心はまだ怖れているのでした。

But my inner spirit was still scared.

「あなた、ご迷惑なお願いがあるのでございますが……」

"You have annoying requests ..."

 わたしは返事をしようと思っても言葉が出ないで、ただ、あいまいな声が喉から出るばかりでした。

I didn't speak even when I tried to reply, but the vague voice just came out of my throat.

「肯いてくださいますか」と、女は続けて言った。

“Would you please affirm,” the woman continued.

「あなたは私を救ってくださることが出来るのです。

“You can save me.

わたしは実に苦しんでいるのです、絶えず苦しんでいるのです。

I am really suffering, I am constantly suffering.

ああ、苦しい」

Oh, it ’s painful ”

 そう言って、女はしずかに椅子に坐って、わたしの顔を見ました。

That said, the woman sat down on the chair and looked at my face.

「肯いてくださいますか」

"Would you please affirm"

 私はまだはっきりと口がきけないので、黙ってうなずくと、女は亀の甲でこしらえた櫛をわたしに渡して、小声で言いました。

I still can't speak clearly, so nodding silently, the woman handed me a comb with a turtle shell and shouted.

「わたしの髪を梳いてください。

"Please comb my hair.

どうぞ私の髪を梳いてください。

Please comb my hair.

そうすれば、わたしを癒すことが出来るでしょう。

Then you can heal me.

わたしの頭を見てください。

Look at my head.

どんなに私は苦しいでしょう。

No matter how hard I am.

わたしの髪を見てください。

Look at my hair.

どんなに髪が損じているでしょう」

No matter how bad your hair is. ''

 女の乱れた髪ははなはだ長く、はなはだ黒く、彼女が腰をかけている椅子を越えて、ほとんど床に触れるほどに長く垂れているように見えました。

The woman's disordered hair was long and black, and she seemed to drip long enough to touch the floor over the chair she was sitting on.

 わたしはなぜそれをしたか。

Why did I do that?

私はなぜ顫えながらその櫛をうけ取って、まるで蛇をつかんだように冷たく感じられる女の髪に自分の手を触れたか。

Why did I pick up the comb whispering and touched my hand to the hair of a woman who felt cold as if he grabbed a snake?

それは自分にも分からないのですが、そのときの冷たいような感じはいつまでも私の指に残っていて、今でもそれを思い出すと顫えるようです。

I don't know that, but the cold feeling at that time has always been in my finger and I can still remember it.

 どうしていいか知りませんが、わたしは氷のような髪を梳いてやりました。

I do not know what to do, but I combed my icy hair.

たばねたり解いたりして、馬の鬣毛のように一つの組糸としてたばねてやると、女はその頭を垂れて溜め息をついて、さも嬉しそうに見えましたが、やがて突然に言いました。

When he springs and unwinds and springs as a braid like a horse's eyelashes, the woman hangs on her head and sighs, but she looks happy, but she suddenly said .

「ありがとうございました」

"Thank you very much"

 わたしの手から櫛を引ったくって、半分あいているように思われた扉から逃げるように立ち去ってしまいました。

I pulled a comb from my hand and left to escape from the door that seemed to be half open.

ただひとり取り残されて、私は悪夢から醒めたように数秒間はぼんやりとしていましたが、やがて意識を回復すると、ふたたび窓ぎわへ駈けて行って、めちゃくちゃに鎧戸をたたきこわしました。

I was left alone, and I was absent for a few seconds as if I had awakened from a nightmare.

 外のひかりが流れ込んできたので、私はまず女の出て行った扉口へ駈けよると、扉には錠がおりていて、あけることの出来ないようになっているのです。

The outside light has flowed in, so when I first went to the door where the woman went out, there was a lock on the door so that it could not be opened.

もうこうなると、逃げるよりほかはありません。

When this happens, there is nothing but to escape.

わたしは抽斗をあけたままの机から三包みの手紙を早そうに引っつかんで、その部屋をかけ抜けて、階子段を一度に四段ぐらいも飛び下りて、表へ逃げ出しました。

I grabbed three parcels of letters from the desk with the drawer open, passed through the room, jumped about four steps at a time, and escaped to the front.

さてどうしていいか分かりませんでしたが、幸いそこに私の馬がつないであるのを見つけたので、すぐにそれへ飛び乗って全速力で走らせました。

I didn't know what to do, but fortunately I found my horse connected there, so I jumped on it and ran at full speed.

 ルーアンへ到達するまでひと休みもしないで、わたしの家の前へ乗りつけました。

, I took a break before I reached Rouen and got in front of my house.

そこにいる下士に手綱を投げるように渡して、私は自分の部屋へ飛び込んで、入り口の錠をおろして、さて落ちついて考えてみました。

I gave the younger soldier there to throw a reins, jumped into my room, unlocked the entrance, and calmed down.

 そこで、自分は幻覚にとらわれたのではないかということを一時間も考えました。

So, I thought for an hour that I was caught in hallucinations.

たしかにわたしは一種の神経的な衝動から頭脳に混乱を生じて、こうした超自然的の奇蹟を現出したのであろうと思いました。

Surely, I thought that a kind of nerve impulses caused confusion in the brain and that such a supernatural miracle appeared.

ともかくもそれが私の幻覚であるということにまず決めてしまって、私は起って窓のきわへ行きました。

Anyway, I decided that it was my hallucination, and I got up and went to the window.

そのときふと見ると、私の下衣のボタンに女の長い髪の毛がいっぱいにからみついているではありませんか。

If you look at it then, you may be tangling the long hair of a woman in the buttons on my lower garment.

わたしはふるえる指さきで、一つ一つにその毛を摘み取って、窓の外へ投げ捨てました。

I picked the hair one by one with a fingering finger and threw it out of the window.

 わたしは下士を呼びました。

I called a junior.

わたしはあまりに心も乱れている、からだもあまりに疲れているので、今日すぐに友達のところへ尋ねて行くことは出来ないばかりか、友達に逢ってなんと話していいかをも考えなければならなかったからです。

I'm so disturbed, I'm so tired that I can't just ask my friend right away, and I had to think about how to talk to my friend is.

 使いにやった下士は、友達の返事を受け取って来ました。

】 The junior who did the job received a friend's reply.

友達はかの書類をたしかに受け取ったと言いました。

My friend told me that I received the document.

彼はわたしのことを聞いたので、下士は私の快くないということを話して、たぶん日射病か何かに罹かったのであろうと言うと、彼は悩ましげに見えたそうです。

He heard about me, so he told me that his junior talked about my unpleasantness and said he probably had sunstroke or something.

 わたしは事実を打ち明けることに決めて、翌日の早朝に友達をたずねて行くと、彼はきのうの夕に外出したままで帰ってこないというのです。

When I decided to tell the fact and asked my friend early in the morning the next day, he would n’t go home yesterday evening.

その日にまた出直して行きましたが、彼はやはり戻らないのです。

He went out again on that day, but he still does not return.

それから一週間待っていましたが、彼はついに戻らないので、私は警察に注意しました。

Then I waited for a week, but he didn't come back, so I watched the police.

警察でもほうぼうを捜索してくれましたが、彼が往復の踪跡を発見することが出来ませんでした。

The police searched for Hobo, but he was unable to find a round trip trace.

 かの空家も厳重に捜索されましたが、結局なんの疑うべき手がかりも発見されませんでした。

The unoccupied house was also scrutinized, but no suspicious clue was found after all.

そこに女が隠されていたような形跡もありませんでした。

There was no evidence that the woman was hidden there.

取り調べはみな不成功に終わって、この以上に捜索の歩を進めようがなくなってしまいました。

All the investigations were unsuccessful, and no further search was possible.

 その後五十六年の間、わたしはそれについてなんにも知ることが出来ません。

After that, for 56 years, I don't know anything about it.

私はついに事実の真相を発見し得ないのです。

I can finally find the truth of the facts.

底本:「世界怪談名作集 下」河出文庫、河出書房新社

Sukomoto: “World ghost story masterpiece collection” Kawade Bunko, Kawade Shobo Shinsha

   1987(昭和62)年9月4日初版発行

Issued the first edition on September 4, 1987

入力:もりみつじゅんじ

Input: Junji Mori

校正:多羅尾伴内

Proofreading: Tarao Bannai

2003年12月7日作成

Created on December 7, 2003

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